登山家ジョージ・マロリーについて調べていたら、Wikipediaにこんな記述があった。

マロリーの言葉として広く人口に膾炙する「そこに山があるから」(Because it is there.)という言葉は、1923年にニューヨーク・タイムズ紙の記者の問いかけに答えたものだとされるが、本当にマロリーがこう言ったのかどうかはっきりしない。記事として掲載されたのは1923年10月18日であるが、これはマロリーがアメリカ各地で講演を行ってからしばらく後のことであった。マロリーは言葉を選びながら多くを語るタイプであり、この短い言葉が彼のものとしてはあまりにぶっきらぼうで、そっけなさ過ぎるとマロリーを知る人々は感じた。マロリーと共にエベレストを歩き、彼をよく知るハワード・サマヴィルはこの言葉について「少しもジョージ・マロリーらしい匂いがしない」と切り捨てている。

このあまりにも有名なフレーズについては、僕もかねがね疑問を抱いていた。オリジナルの「Because it is there.」のどこにも山(mountain)という単語が含まれていないからだ。なんとなくだけど、マロリーはかなり疲れていて、そこに記者が「なぜ山に登るんだ?」とナンセンスな質問をぶつけてきたから、つい「なぜかって? そこにあるからだよ」ぐらいのニュアンスでこう答えたんじゃないかな、と。心の中では「シェフは料理を作るし、大工は家を建てる。登山家が山に登るのは当たり前じゃねぇか!」と言いたいところをグッと抑えてね。

ジャーナリストの本多勝一氏はかつてこんなことを言っていた(書いていた?)そうだ。

これは別に山があるからだというわけでなく、「処女峰エベレストがあるからだ」ということなんですよね。だから全然意味が違うんですね。世界一の処女峰エベレストが在るから登るんだということは「皆と同じことはやらぬ」ということなんですよ。

なるほど、そう考えてみると、ニューヨーク・タイムズ紙の記者の質問も「Why do you climb Mt. Everest?」であり、「Why do you climb a mountain?」ではない。つまり、マロリーの言う「it」は一般名詞の山ではなく、エベレストを指しているのだと。

まぁ翻訳された明言なんて、とかく美化されるものですな。