佐賀県の南西部には昔から「餅すすり」という奇妙な食文化がある。つきたての熱々の餅をぬるま湯にくぐらせ、細い棒状に伸ばしながら口の中に連続投入するという荒業で、餅を一切噛むことなくただ喉を通していくだけ。正月番組の中継などで地元のお年寄りが得意そうに披露している姿を見るたび、いつもハラハラドキドキしてしまう。

そういえばとあるバラエティ番組にて、罰ゲームにこの餅すすりが採用されたことがあった。スタジオに呼ばれた佐賀の人たちはいとも簡単にやってのけるが、素人(?)は相当な苦しみをともなうようで、罰ゲームを受けたお笑い芸人も開始早々にギブアップしていた。

食物などが間違って気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)というが、窒息死の可能性があったり肺炎の原因になるなど非常に危険なため、健康な人間なら気管に入りかけた時点でそれを吐き出そうとする反射が起こる。口の奥の喉近くを指で刺激すると「おぇーっ」となるのがそれだ。ちなみに吐瀉物を含むものを嘔吐反射、含まないものを絞扼反射(咽頭反射、催吐反射とも)と言う。これらの反射は高齢になると弱くなるらしく、そういう意味では佐賀県のお年寄りが平気で餅をすすれるのにも合点がいく。

僕は昔から嘔吐反射(絞扼反射)が強い体質で、歯科医院で型取りをする際などはかなり大変なことになる。それでも多少は慣れるのか、反射は収まらないし涙が出てくるものの、苦しみ自体はそれほどでもなかったりする。泣きながら何度もえずいている僕の姿を見た先生や歯科助手さんが、何度も「もうすぐですからね。我慢してくださいね」となだめてくれるのが、逆にちょっと申し訳ない感じだったり。

しかしながら、である。今回ばかりはこの反射に相当苦しめられた。昨日、ようやっとのことで人間ドックを受診したのだが、その際に行なった内視鏡検査、通称・胃カメラがかなりキツかったのだ。口からに比べると比較的楽だと言われている鼻から入れるカメラ(経鼻内視鏡)だったのだが、カメラの先端が喉に差し掛かり、先生に「はい、飲み込んでください」と言われたあたりから若干苦戦。事前に喉の麻酔を施された時点で唾が飲み込めないことを認識していたので、そう簡単には飲み込めないだろう(というより力づくで押し込まれると思っていた)と予想していたのだが、それでもあれこれ力を入れてなんとか成功。が、ここから先がかなりの地獄であった。

食道にカメラの管を通されるという「未経験の異物感」は、言ってみればそれほどでもない。麻酔が効いてるからね。問題は唾の処理だ。口の中に唾が溜まってくるので、無意識にそれを飲み込もうとする。が、食道には先約がいるのでどうしても気管に入る。そして強く咳き込む。反射で身体が動くのでカメラの管が触れているいろんな部分が刺激される。痛くはないのだが気持ち悪いことこの上ないし、咳込んでる間はろくに息ができない。何度も繰り返すと呼吸困難に陥る。窒息死とか溺死の直前ってきっとこんな感じなんだろうなと、モニターに映る意外にキレイな胃の映像を見ながらうすぼんやり考えていた。

検診が終わってしばらくして麻酔が切れたときも、鼻や喉が痛んだり出血することもなかったので、先生の腕は確かなんだと思う。だけど、胃カメラはしばらくご勘弁いただきたいなぁというのが、今の正直な気持ちです、はい。