終電近くの電車で帰宅した夜、最寄り駅から自宅までの家路にて、すれ違った熟年カップルがこんな会話を交わしていた。

「見てごらん、きれいな月。あれは上弦の月だねぇ」
「えっと……確かに、上限の月ですね」

振り返って空を見上げてみると、なるほど、ちょうど円の上部を少しだけスライスしたようなフォルムの月がよく見えた。半月は弓張り月(もしくは弓月、弦月)とも呼ばれ、昔の人はその形状を弓になぞらえた。そして、弦に相当する欠け際の部分が上にある状態を「上弦の月」と呼んだわけである。今宵の月は半月とは呼べないまでも、確かに弦は上にある。

しかしながら、である。熟年カップル同士めでたく同意が得られたところで残念ではあるが、今宵の月は「上弦の月」ではなく、その逆の「下弦の月」である。

よくよく考えてほしい。月は太陽と同じように東から昇り西に沈む。半月を例にとると、南の空の真上に位置する「正中」のときには右半分か左半分が欠けた状態になる。よって東の空から月が昇った(月出)時点で上半分が欠けて見えたとしても、正中以降、月が西に沈む(月没)までは下半分が欠けて見えるはずだ。もちろん、前半を上弦の月、後半を下弦の月と呼ぶわけではない。上弦と下弦の違いは、単なる見た目の違いではないのだ。

結論を先に言うと、新月(朔)から満月(望)に向かう間の半月が「上弦の月」で、満月から新月に向かう間の半月が「下弦の月」である。筆者の場合、数日前に満月を見た記憶があったため、今宵の月がすぐに「下弦の月」と分かったわけだ。

以前にも書いたが、満月のときの月出は日没とほぼ同時刻である。月出は毎日約50分ずつ遅れていくので、満月の翌日以降は日が沈んで少し経ってから月が出ることになる。さらに満月から15日が経過した新月のとき、月出は日の出とほぼ同時刻になる。

月齢7.5付近の半月(=上弦の月)は昼間に昇って夜中に沈むし、逆に月齢22.5付近の半月(=下弦の月)は夜中に昇って昼間に沈む。勘のいい方ならもうお分かりかと思うが、日没以降の比較的早めの夜の空に見える半月は「上弦の月」であり、その際の弦に相当する部分も文字通り上になる。そのことから「弦が上の半月=上弦の月」という認識が広まったのだろう。

調べてみたところ、今宵の月齢は18.1だった。満月から3日しか経過していないため、月出は日没から2時間半ぐらい後。先ほど熟年カップルと僕が月を見上げた時刻は0時過ぎ。おそらく午前4時ぐらいに正中を迎え、そこからようやっと弦が下に見えるようになるはず。

ふと窓から外を確認してみると、弦の部分が少し右(西)に傾いた月の姿がはっきりと確認できた。