セミの話の続き。というか、素数ゼミの話ね。
Wikipediaの「周期ゼミ」(「素数ゼミ」から転送)の導入部分にはこう書かれている。
周期ゼミ(しゅうきぜみ)とは、セミのうちMagicicada属に属する複数の種の総称。毎世代正確に17年または13年で成虫になり大量発生するセミである。その間の年にはその地方では全く発生しない。ほぼ毎年どこかでは発生しているものの、全米のどこでも周期ゼミが発生しない年もある。周期年数が素数であることから素数ゼミともいう。17年周期の17年ゼミが3種、13年周期の13年ゼミが4種いる。なお、17年ゼミと13年ゼミが共に生息する地方はほとんどない。
さらに、アメリカの進化生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドの著作「ダーウィン以来—進化論への招待」にも、周期ゼミに関する以下のような興味深い記述がある。
17年の間というもの17年ゼミの幼虫は地下にいて、合衆国の東半分全体にわたって森林の木の根から樹液を吸っている(南部諸州は例外で、そこでは非常に似た種かあるいは同じ種が13年ごとに羽化する)。やがて、わずか2、3週のうちに、何百万という完熟幼虫が地中から現われて成虫になり、交尾し、卵を生み落として死ぬ(進化的見地からの最良の説明は、M・ロイドとH・S・ダイバスの1966年の論文と1974年の論文に見られる)。最も注目すべき点は、1種ではなく3種の別個の17年ゼミが、正確に同一のスケジュールにしたがって、まったく同時に羽化することである。地域が異なれば羽化が同時でないこともある。たとえば、シカゴ周辺のものはニューイングランド産のものと同じ年には羽化しない。けれども17年の周期(南部では13年)はどの地域でも変わらなくあって、3つの種は同一地域ではいつもいっしょに羽化する。
まったくもって不思議な現象だが、おそらく疑問点をまとめると以下のようになるだろう。
- なぜ正確に周期発生するのか?
- なぜ素数なのか?
- 11や19も素数だが、なぜ13と17だけなのか?
あらかじめ断っておくが、これらの謎は完全に解明されているわけではない。前述したロイドとダイバスは、「捕食者飽食戦略」という仮説によって説明している。また、前回のエントリで書いた吉村仁氏は、氷河期と成長速度に関連づけた自説を説いている。
まずは捕食者飽食戦略から説明しよう。ホショクシャホーショクセンリャクとはなんともコムツカシイ言い回しではあるが、要は捕食者(この場合はセミを食べる他の生物。天敵)が食べきれないほど大量発生することで種を守る防衛策のことだ。グールドいわく、自然史とは捕食を回避するためのありとあらゆる「適応」の物語である、と。捕食者飽食戦略もそんな適応のひとつだが、これが成功するためには必要条件が2つある。発生のタイミングが正確であること、そして、捕食者がそのサイクルに順応できないよう発生頻度がごく稀であることだ。
セミの捕食者には鳥やクモ、カマキリ、スズメバチなどがいるが、それらの生活環(生物個体が発生を開始してから次世代の個体が発生を開始するまでのサイクル)はせいぜい2~5年だそうだ。もしも周期ゼミの発生周期がこの範囲であれば、セミが羽化する際(というか、土の中から出てきた瞬間)に捕食者の餌食となる。つまり、いくら大量発生しようとも絶滅へのカウントダウンは止まらない。では、単純に周期が長くなればいいのかと言えばそうではない。たとえば捕食者の繁殖の周期が5年だと仮定しよう。件のセミが15年周期だったとすれば、捕食者の生活環の3サイクル目と繁殖期が一致し、同じように餌食になってしまう。20年とて同じこと。要は両者の最小公倍数のサイクルで繁殖時期が一致してしまうのである。が、13や17という素数なら、そのサイクルをグンと引き延ばすことが可能になる。前述の例で言えば、5年と13年の最小公倍数は65年、5年と17年なら85年だ。16年ゼミの場合も80年だが、捕食者の繁殖のサイクルが5年ではなく4年であれば最小公倍数は16年になってしまう。つまり、捕食者の繁殖のサイクルが2~5年のいずれであっても最小公倍数を大きくできる数、それが素数というわけだ。
と、ここまで書いても、まだ3番目の疑問点が明らかになっていないことにお気づきだろう。11年ゼミや19年ゼミはなぜいないのか、という謎についての説明がまだである。
とはいえ今回も長くなってしまったので、続きは、また。